新年度の決意

久しぶりに懐かしい友人二人と会った。

彼女たちと最後に会ったのは、おそらく20年近く前のこと。
年賀状のやりとりしかしていなかった私たちが
なぜ急に会うことになったのかというと
友人の一人が、私ともう一人の友人に突然コンタクトを取ってきたからだ。

会ってから分かったことだが、
「もし急に明日死ぬとなった時に
誰に最期に会いたいと思うのか」
と思うようになり、
連絡をくれた彼女は思ったようだ。

後悔しないように
やりたいと思ったことはすぐにやるように、
会いたいと思った時はすぐに会うように、
そんなことを思っての行動だったようである。

不思議なことだと思った。
私もこの2〜3年、
同じことを思って、毎日を生きているからである。
そんな思いで、私を選んで連絡をくれたことが
本当に嬉しい。

とはいえ
あまりに久しぶりすぎて、
お互いに「何を話せばいいだろう?」と緊張していたが、
会ってしまえば、そんな心配は無用だった。

今は疎遠になってしまっていた彼女たちだが
当時は二人とも、間違いなく「親友」だった。

彼女たちは、看護師新人時代をともに過ごした同期だ。
それぞれ別の看護学校を出て、
同じ病院の同じ病棟に配属された仲間。
就職1年目、看護師1年目の辛い時期を共有した。

その病棟に配属された同期は、私を含め6人だった。
そのうち一人は3ヶ月も経たないうちに退職し、
あとの二人も3年目には退職・配置換えとなり、
4年目に残ったのが私と友人二人であった。
だからこそ、私たち3人の結束は深かったように思う。

画像の説明



私はその一年後、結婚退職のため病院を去ったが、
友人二人はその後かなり長い間、その病院に残っていたようだ。
今でも別の病院で看護師を続けている。

現在も看護師を続けている二人とは違い、
今の私は「お香」「礼法」という、全く違うことをしている。

よく「昔は看護師をしていた」と話すと
「もう復職はされないのですか?」とか
「ずっと持っていられる国家資格だから、いつでも病院に戻れていいですね」
と言われる方がいるのだけれど、
それを言われるのが案外辛い。

色々あったうえで看護師を辞めることを決めたので、
病院という場所に戻るという選択肢は
私の中にはもうないのである。

もし「看護に戻ってこないの?」と聞かれたら嫌だなと思っていたが、
二人の反応は違っていた。

「もう、看護には戻らないんでしょ」

断定的に、
初めからそんなことはお見通しかのように
二人は私に話してきた。

すごく気持ちが楽になった。

今の「私」をそのまま認めてくれるのを感じた。
「この二人にはかなわないなあ」と思った。

仕事も一緒。
遊ぶのも一緒。
落ち込んだ時には励まし合い、助け合い、
看護師2年目になり心に余裕ができて、みんなで茶髪にしたときには、
先輩ナースから「2年生、髪、茶色すぎ」と怒られ、
ペーパードライバー3人でレンタカーでドライブにいっては劇細の山道に迷い…

とにかくずっと一緒にいた25年前。
二人に私の性格は、分かりきっていたようだ。

けれど、話してみると
私と同じことを、二人も感じていた。
「あの頃の患者さんのことを、一番覚えている」と。

今でも看護を続けている彼女たちが
今みている患者さんたちよりも
新人の頃に見ていた患者さんの方を
より鮮明に覚えているというのだ。

私もふと思い出すのは、
新人の頃に私を育ててくれた患者さんたちの言葉だ。

「あなたは笑っていればいいんだよ」
何もできない新人ナースにそう言ってくれた患者さん。

「あなたのことは、前回入院の時からよく覚えているわ」
私はその患者さんのことをあまり覚えていなかったのに、そう言ってくれた患者さん。

「今日の担当が君でよかった」
不安そうな顔だったのに、訪室するとそう言葉をかけてくれた患者さん。

「私は何もできない、何もしてあげられない」と思っていたのに
こんな温かい言葉をかけてくれた。
大した技術も持っておらず、知識も足りない私だけど、でもそう言ってくれる人たちがいた。

そんな患者さんたちがいたからこそ、
今の私がいるのである。

看護という現場は離れたけれど、
あの時がなければ、今の私はいない。
応援してくれて、自分を必要としてくれる人がいたから
私は存在していられた。

友人二人と話し、
彼女たちも同じ思いを持っていたことが
とても嬉しく思えた。

これからも私は看護に戻るつもりはない。
でも今の活動も根本は同じだと思っている。

「自分ができる精一杯で、その人と向き合うこと。」

「何かをしてあげるのではなく、その方の心に寄り添うこと。」

一見、今私のやっていることはバラバラに見えるかもしれないけど
私の中では根底は全部繋がっている。

何かを批評するとか、誰かを批判するのではなく、
その人のあるがままを認めていきたいと思っている。

2021年度が始まった。
初心を忘れず、
自分が最期を迎えるときに後悔しないよう、
一歩ずつ、確実に前に進んでいこう。